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1、五十音図の歴史は平安時代にまでさかのぼり、わずかながらいろは歌より前に成立した。
2、その「あかさたな」、「あいうえお」という配列のもとになったのは、インドの古典語であるサンスクリットを表すために作られたデーヴァナーガリー文字の配列であった。
3、インドでは、このように音声を精密に分析する学問(悉曇学、しったんがく)が古くから発達していた。
4、この文字が仏教にともなって日本に伝えられたのは、ずいぶん古いことなのである。
5、日本で梵字とよばれたデーヴァナーガリー文字の配列にならって五十音図を作ったのが仏教の僧侶であったことは間違いがない。
6、 ここで、五十音図のことはいったん忘れて、梵字の配列を見てみよう。
7、まず、母音の配列を見ると、長短の区別があること、あいだにR(表によってはLも)が入っていることが気になるが、基本的には「あいうえお」という並べ方であることが分かるであろう。
8、RやLが母音というのは日本人にはぴんと来ないが、これは、印欧語の古い特徴であり、今日の英語でも little の le の部分など、子音というより母音の役割を果たしている。
9、「エ」とオ」とは、常に長く発音される。
10、これは、それぞれ「アイ」「アウ」が変化したからである。
11、右の表にある「アイ」「アウ」は、さらに「アエー」「アオー」からできたものである。
12、サンスクリットの母音の基本は「ア、イ、ウ」の3母音であり、これが「エ」「オ」がそれ以上分割できないRやLよりもあとに置かれる理由となっている。
13、「アイ」「アウ」が「エー」「オー」となるのは、世界中の言語でよくあることである。
14、今日の英語でrainは「ライン」ではなく「レイン」と読む。
15、sauceは「サウス」ではなく「ソース」と読む。
16、これは、日本語の江戸の下町言葉で「知らない」が「知らねえ」になったり、「読まむ」からM音が脱落して生じた「読まう」が「読もう」になったのと同じことである。
17、 つぎに、子音の表を見てみよう。
18、梵字の子音字は単独では「ア」を伴った音として読まれ、他の母音を伴うときは、別に母音表記がなされる。
19、喉音から唇音までは5つずつの文字があるが、いずれも無声無気音、無声有気音、有声無気音、有声有気音、鼻音の順に整然と並んでいる。
20、口蓋音とは「チャ」という感じの音であり、背舌音とは舌先を反り返らせて出す音で日本語にはない。
21、ここまでの文字を日本語にない音や濁音を省いて唱えると、「アカチャタナパマ」となる。
22、そして、続く半母音(子音として用いられる母音)が「ヤラワ」の順になっているのを加えると「アカチャタナパマヤラワ」となり、五十音図の配列とそっくりであることが分かる。
23、 ここで気になるのは、半母音のあとにさらに続いている摩擦音である。
24、「シャ」「サ」「ハ」という感じの音であるから、今の日本語の感覚では、梵字の配列にならったのなら、五十音図は、「アカタナマヤラワサハ」の順になりそうなものである。
25、しかし、日本語の「はひふへほ」が室町時代までは「ふぁふぃふふぇふぉ」であり、さらに古くは「ぱぴぷぺぽ」であったことは、なぜ「いっぽん、にほん、さんぼん」なのか?ですでに書いた。
26、さらに、「サシスセソ」も、今も少なくとも語の頭では、濁音の「ザジズゼゾ」が「ツァチツツェツォ」の濁った音であることなどから、古くは「ツァツィツツェツォ」か「チャチチュチェチョ」のような発音だったと考えられている。
27、結局、五十音図が成立したころの日本語にはSの音もHの音もなかったのであるから、五十音図の配列は、すんなりと「アカチャタナパマヤラワ」の順となり、のちの音の変化により、今日の「アカサタナハマヤラワ」となったのである。
28、 それでは、そもそも梵字の子音はどのような順に並べられているのであろうか? 一言でいって、子音の調音点(音を出すところ)が口の奥にある音に始まり、しだいに前に行くように並べられている。
29、「ア」は子音がなく、母音がそのまま声帯から出てくる音なので当然最初に置かれる。
30、子音は母音の流れをさえぎるものだが、「カ」の子音であるKの場合は、口の奥で息を破裂させることによって出す。
31、舌と口蓋(口むろの天井)との間で出す「チャ」となると、調音点はだいぶ前に出てくるが、舌はまだ歯についてはいない。
32、しかし、「タ」になると舌は歯につく。
33、、「ナ」の調音点は「タ」とまったく同じだが、声を鼻に抜く点だけが違う。
34、さて、問題はつぎに現代語のhaが続いたのでは、調音点が一挙に奥に逆戻りしてしまうということである。
35、このことからも、日本語の「は」行が「ふぁ」行だったことが証明できるのである。
36、そして唇を完全に閉じて出す「ま」までで、調音点の移動は一通り終わる。
37、そして、残る「やらわ」は半母音として別扱いとなっているが、これまた奥から前へという順に並べられている。
38、半母音のあとに置かれる摩擦音については、調音点の移動ということを考えるなら、H音だけは「気音」として別扱いとしたほうがいいと思う。
39、 なお、現在の五十音順配列では「ん」が最後にくるが、これは「ん」という音自体が日本語の歴史の中ではあとからできたものだからである。
40、「阿吽」という言葉を説明するとき、梵字の最初が「ア」で最後が「ン」だからというのは、五十音と梵字とを混同したもののようである。
41、 私は大学に入るまで、五十音図というのは、ローマ字を教えるため、明治ごろに作られたものだと思っていた。
42、このような精密な音の分析が古くから東洋で行われていたことは、学校でもっと早くから教えられてもいいことだと思う。
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